2025/12/4
10月24日、びわ湖ホール大ホールにて、「2025年度膳所高校芸術鑑賞会」が開催されました。
今年度は、世界三大音楽コンクールの一つ「エリザベート王妃国際音楽コンクール ピアノ部門」にて日本人歴代最高位となる第2位を受賞された久末航さんが、母校・膳所高校に錦を飾る凱旋演奏。共演者にヴァイオリンの玉井菜採さん、チェロの佐藤晴真さんを迎え、室内楽コンサートが行われました。
演奏会はバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタで静かに幕を開け、会場全体が一瞬にして音楽に引き込まれました。続いて久末さんのピアノソロによるシューベルト=リスト「ウィーンの夜会」より第6番。ラヴェルの「ピアノ三重奏曲」では、演者それぞれの音が重なり合い、響きが紡がれていきました。
「室内楽とは、演奏者同士が互いに影響し合いながら仕上がっていくもの。その時にしか生まれないものがあり、二度と同じ演奏にはならない」―玉井さんのこの言葉によって、その一瞬の音の重なりに、その日だけに起きる何かを感じ取ろうとする気持ちが会場を満たす中で、3名が奏でる音色がホール全体を包み込みました。
さらに特別な企画もありました。在校生の髙木悠さん(3年)が、バッハ「2つのヴァイオリンのための協奏曲」に共演者として参加したのです。演奏を終えた髙木さんは「1,000人を超える観衆を前に緊張もあったが、御三方と演奏できたことの楽しさのほうが大きかった」と語り、「演奏の一体感に驚いた」と振り返りました。リハーサルから当日まで、緊張の中で重ねた貴重な経験を生徒の皆さんに紹介してくれました。
合間のトークでは、久末さんが膳所高卒業生(2013年)であることを紹介。「当時は理系志望だったが、満足のいく結果ではなかった受験を経て、自分にはこの道があると、ピアノ留学を選ぶことにした」と当時を振り返り、生徒たちが身近に感じられるエピソードを語ってくださいました。また、佐藤さんは東京藝術大学附属高校へ進学のため家を出たときのこと、玉井さんは同校で教鞭を執る立場としての楽しい話を聞かせてくださいました。
参加者からは「音のない静寂の中に繊細なヴァイオリンが浮かび上がり、ピアノの旋律は頭の中で映像化されるようだった」「チェロの音色が腹の底に響いた」との声もあり、音楽が五感を超えて心に届く時間となったことがよく分かります。あまりの素晴らしさに、取材を忘れて、聴き入ってしまうほどでした。
アンコール曲が終わった後も、惜しむような拍手がしばらく続きました。世界の第一線で活躍する音楽家と同じ空間で過ごすことができたこの日、膳所高校から広がる世界へのつながりを改めて実感する芸術鑑賞会となりました。一線で活躍するプロフェッショナルの生き様に触れる貴重な経験は、いつか一歩を踏み出す力が必要になったときに役立つ、そんな予感をさせつつ演奏会は幕を閉じました。